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神戸地方裁判所 昭和56年(ワ)64号 判決 1983年9月28日

原告

木村満喜

被告

中江秀夫

主文

被告は原告に対し、金八〇万〇、六九二円およびうち金七三万〇、六九二円に対する昭和五三年一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は一〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

この判決は第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一、一二六万三、五五二円およびうち金一、〇二六万三、五五二円に対する昭和五三年一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故の発生

原告は、左記交通事故により傷害を受けた。

(1) 日時 昭和五三年一月一八日午後〇時二五分ころ

(2) 場所 神戸市長田区西丸山町二丁目五番一号先路上

(3) 加害車両 普通乗用車(神戸五五あ五二二八)

運転者 被告

(4) 被害車両 原付自転車(神戸長き一二四六)

運転者 原告

(5) 事故の態様 東から西に進行中の加害車両が、西から東に進行中の被害車両の前部に自車右前部付近を衝突させた。

(6) 傷害の部位、程度

(イ) 頸椎捻挫、右肩関節部、左上胸部、両膝部、右足関節部打撲傷

(ロ) 昭和五三年一月一八日から昭和五四年八月一三日まで(実治療日数三三四日)飯尾病院に通院。

昭和五四年九月三日から昭和五五年九月一一日まで(実治療日数一四三日)東神戸病院に通院。

(ハ) 昭和五五年九月一一日症状固定

自賠令別表一二級該当

2  責任原因

被告には左側を通行しなかつたことと、前方注視を怠つた過失があつたから、民法七〇九条所定の責任がある。

3  損害 金一、一二六万三、五五二円

(1) 通院交通費 金九二万二、二二〇円

(2) 休業損害 金一三〇万二、〇〇〇円

原告は、本件事故当時、就労していなかつたが、かねて経営していた鉄工業を再開する予定であり、一日当り、すくなくとも、金三、〇〇〇円の収入を得ることができた筈であるところ、本件事故により四三四日間就労することができなかつたから、休業損害は金一三〇万二、〇〇〇円(3,000円×434日=1,302,000円)となる。

(3) 逸失利益 金四六三万九、三三二円

原告の労働能力喪失率を一四パーセント、その喪失期間を一四年間とし、賃金センサスの平均年収金三一八万三、六〇〇円を基準として、逸失利益を算出すると金四六三万九、三三二円(3,183,600円×0.14×10.409=4,639,332円)となる。

(4) 慰藉料 金三四〇万円

(5) 弁護士費用 金一〇〇万円

4  結論

よつて、原告は被告に対し、金一、一二六万三、五五二円およびうち金一、〇二六万三、五五二円に対する昭和五三年一月一九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(1)、(2)、(3)、(4)は認めるが、(5)は否認し、(6)は知らない。

2  同2は否認する。

3  同3は知らない。

三  抗弁

原告は、本件交通事故による損害の一部として、合計金六〇万円(通院交通費金一〇万円、示談金内払金五〇万円)の支払を受けている。

四  抗弁に対する認否

認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録および証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件交通事故の発生について

請求原因1の(1)、(2)、(3)、(4)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、原被告各本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、東西に通ずる幅員六・五メートルの道路であつて、センターラインによつて、東行車線と西行車線に区分されておるが、南にカーブを描いているため、東西の見とおしは、よくないこと、被告は、加害車両を運転して、西行車線を西進中、自車進路上に小型乗用自動車が駐車していたので、右に転把して東行車線に進入して時速約一五キロメートルで西進を続けたところ、前方約一四・三メートルの東行車線の北側路側帯よりを東進してくる被害車両を発見したが、さらに約五・七メートル西進した地点で、被害車両が、センターラインよりに進路を変更するのを前方六・三メートルに認めて危険を感じ、左に転把して西行車線に進路を戻そうとしたが及ばず、そのまま東進する被害車両の前部に自車右前部を衝突させたこと、原告は、被害車両を運転して、東行車線の北側路側帯よりを時速約二〇キロメートルで東進中、自車進路上を西進する加害車両を前方約一四・三メートルに発見したのにかかわらず、加害車両が停車しているものと即断し、加害車両の右側を通過しようとして右に転把したところ、加害車両が西進してくるのを前方約六・二メートルに発見して危険を感じ、左に転把したが及ばず、自車前部を加害車両の右前部に衝突させて、路上に転倒したこと、以上のとおり認めることができ、右認定に反する原被告各本人尋問の結果の一部は採用できない。そして、成立に争いのない甲第二、三号証、第五号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件交通事故により、頸椎捻挫、右肩関節部、左上腕部、両膝部、右足関節部打撲傷の傷害を受け、昭和五三年一月一八日から昭和五四年八月一三日まで(実治療日数三三四日)飯尾病院に通院治療を受け、昭和五四年八月一三日、症状固定の診断を受けたが、後遺障害の内容は、自覚症状として、頭痛、頭重感、視力の低下、記銘力の低下を訴え、両手指、中指、環指、小指のシビレと脱力であり、他覚症状として、レ線上に頸椎C4、5、6に軽度の変形があり、後屈位で角形成があり、両手指の触覚痛覚は正常ないし、やや鈍麻を認めるというものであり、障害の程度および内容は、頭痛、眼精疲労、上肢のシビレ、脱力感などを訴える神経症状で、局所に頑固な神経症状を残すというものであること、しかるに、原告は、さらに昭和五四年九月三日から昭和五五年九月一一日まで(実治療日数一四三日)東神戸病院に通院し、昭和五五年九月一一日、同病院において、症状固定の診断を受けたが、その後遺障害の内容、程度は、飯尾病院の前記診断とほとんど同一であること、以上のとおり認められる。

二  責任原因について

前記認定の本件交通事故の態様によれば、本件交通事故には、被害車両を運転していた原告が、西進中の加害車両を停車しているものと即断し、加害車両の右を通過しようとして、右に転把したが、接近してくる加害車両に危険を感じて左に転把した点に原告の不注意が認められるけれども、加害車両を運転していた被告も、また、自車進路上に駐車していた車両を追い越すためとはいえ、対向車線に進入し、折柄、対向車線を対向して進行してくる被害車両を発見しながら、直ちに左に転把して自己の車線に進路を戻そうとせず、被害車両が接近してきて、はじめて危険を感じて、左に転把した点に被告の過失が認められるのであるから、被告は民法七〇九条所定の責任を免れない。

三  損害について

(一)  通院交通費 金二一万七、八〇〇円

前記認定事実によれば、原告は、昭和五四年八月一三日、症状固定したものと認めるのが相当であるから、通院交通費は、飯尾病院における実治療日数三三四日についてのみ是認すべきところ、原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第三号証によれば、原告は右実治療日数三三四日のうち一二日間は、神戸市長田区内の自宅から通院し、うち三二二日間は、神戸市灘区内の自宅から通院し、交通費として、前者には、バスで往復金四四〇円、後者には、バスで往復金六六〇円を要したことが認められるから、通院交通費は合計金二一万七、八〇〇円(440円×12日+660円×322日=217,800円)となる。

(二)  休業損害 金一〇〇万二、〇〇〇円

成立に争いのない乙第二号証の一ないし四、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五一年八月三一日、別件交通事故により頸椎挫傷の傷害を受け、昭和五一年九月二日から昭和五二年六月一三日まで飯尾病院で治療を受け、昭和五二年六月一三日、症状固定の診断を受けたが、その後遺障害の内容と程度は、本件交通事改によるそれとほとんど同一であるところ、本件交通事故発生当時には、鉄工所関係の営業を再開しようとしていたことが認められるのであるから、本件交通事故により、営業を再開できず、そのため、症状の固定した昭和五四年八月一三日までの実治療日数である三三四日間について、すくなくとも賃金センサスによる五〇歳から五四歳の年齢別平均給与月額金二六万五、〇〇〇円を超えない原告主張額である一日当り金三、〇〇〇円の割合による損害を被つたといえるので、これを基準として、原告の休業損害を算定すると金一〇〇万二、〇〇〇円(3,000円×334日=1,002,000円)となる。

(三)  逸失利益 金一二一万五、八四一円

原告の後遺障害の内容と程度によれば、原告の労働能力喪失率は一四パーセント、その継続期間は三年と認めるのが相当であるから、前記賃金センサスによる平均給与月額金二六万五、〇〇〇円を基準として、原告の逸失利益を算定すると金一二一万五、八四一円〔265,000円×12×0.14×2.731(新ホフマン係数)=1,215,841円〕となる。

(四)  慰藉料 金二〇〇万円

原告の傷害の部位、程度、通院期間、後遺障害の内容、その他諸般の事情に照らし慰藉料額は金二〇〇万円をもつて相当と認める。

(五)  原告の素因の寄与度と過失相殺による減額

原告が、昭和五一年八月三一日、別件の交通事故により、頸椎挫傷の傷害を受け、昭和五二年六月一三日、症状固定の診断を受け、その後遺障害の内容と程度は、昭和五三年一月一八日発生した本件交通事故によるそれと、ほとんど同一であることは既に認定したとおりであるから、原告の別件交通事故による後遺障害の素因が本件交通事故と競合して一個不可分の損害を発生したものと認めるのが相当であるが、原告の右素因の寄与度は、五〇パーセントと認めるのが相当であり、また、本件交通事故の態様によれば、本件交通事故は、被告の過失のみならず、原告の不注意も原因をなすものであることは既に認定したところであるから、過失相殺により、損害の二〇パーセントを減殺するのが相当であるところ、原告の前記(一)ないし(四)の損害額は合計金四四三万五、六四一円であるからその七〇パーセントを減殺すると、原告の損害額は金一三三万〇、六九二円となる。

(六)  損益相殺

原告が、本件交通事故の損害の一部として、金六〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを前記(五)の金一三三万〇、六九二円から控除すると金七三万〇、六九二円となる。

(七)  弁護士費用 金七万円

本件訴訟の審理の経過と内容、事案の難易度、認容度、その他諸般の事情に照らし、弁護士費用は金七万円をもつて相当と認める。

四  むすび

よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、金八〇万〇、六九二円とうち金七三万〇、六九二円に対する昭和五三年一月一九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるから認容するが、その余は失当として棄却することとし、民訴法八九条、九二条、同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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